東京地方裁判所 平成12年(ワ)10284号・平11年(ワ)19937号 判決
主文
一 原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
二 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、別紙工場財団目録記載の工場財団につき、千葉法務局八千代出張所平成一〇年一二月一四日受付第二一七〇七う号による別紙登記目録一記載の抵当権設定仮登記の会社更生法による否認の登記手続をせよ。
三 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、別紙工場財団目録記載の工場財団につき、千葉法務局八千代出張所平成一〇年一二月一四日受付第二一七〇八あ号による別紙登記目録二記載の抵当権設定仮登記の会社更生法による否認の登記手続をせよ。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、原告(反訴被告)の負担とする。
事実及び理由
第一請求
(本訴)
一 被告ら(反訴原告ら)(以下、「被告ら」という。)は、原告(反訴被告)(以下、「原告」という。)に対し、別紙工場財団目録記載の工場財団につき、千葉法務局八千代出張所平成一〇年一二月一四日受付第二一七〇七う号による別紙登記目録一記載の抵当権設定仮登記について、平成四年九月二四日金銭消費貸借平成一〇年一一月二七日設定契約を原因とする抵当権設定仮登記に基づく本登記手続をせよ。
二 被告らは、原告に対し、別紙工場財団目録記載の工場財団につき、千葉法務局八千代出張所平成一〇年一二月一四日受付第二一七〇八あ号による別紙登記目録二記載の抵当権設定仮登記について、平成五年二月二六日金銭消費貸借平成一〇年一一月二七日設定契約を原因とする抵当権設定仮登記に基づく本登記手続をせよ。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
(反訴)
主文第二ないし四項同旨
第二事案の概要
一 本件は、原告が、更生会社佐々木オーエンズ硝子株式会社(以下、「佐々木オーエンズ」という。)との間で、抵当権設定契約を締結し、抵当権設定仮登記を経由したとして、被告らに対して、その本登記手続を求めた(本訴)のに対し、被告らは、右抵当権設定契約につき、否認権を行使し、右抵当権設定仮登記の否認登記手続を求めた(反訴)事案である。
二 前提事実
1 原告は、平成一〇年一一月二七日、佐々木オーエンズと別紙工場財団目録記載の工場財団(以下、「本件工場財団」という。)につき次のとおり抵当権設定契約を締結した。
債務者 佐々木クリスタル硝子株式会社(以下、「佐々木クリスタル」という。)
抵当権設定者 佐々木オーエンズ
被担保債権額 二〇〇〇万円
2 また、原告は、前同日、佐々木オーエンズと本件工場財団につき次のとおり抵当権設定契約を締結した(以下、「両契約を合わせて「本件抵当権設定契約」という。)。
債務者 佐々木クリスタル
抵当権設定者 佐々木オーエンズ
被担保債権額 一二五〇万円
3 本件工場財団につき、別紙登記目録一、二記載のとおりの抵当権設定仮登記(以下、両者をまとめて「本件仮登記」という。)が経由されている。
4 佐々木オーエンズは、平成一一年四月二六日、会社更生手続開始決定申立を行い(弁論の全趣旨)、同年七月一九日午後五時三〇分、東京地方裁判所から更生手続開始決定を受け、被告らがその更生管財人に就任した。
三 争点
本件抵当権設定契約が、否認権行使の対象となるか否か。
四 争点に対する当事者の主張
(被告ら)
本件抵当権設定契約は、佐々木オーエンズが、佐々木クリスタルの債務の担保のために行った無償行為であり、しかも、これは、会社更生手続開始決定申立を行う前六か月内にしたものであるから、会社更生法七八条一項四号に該当するし、かつ、佐々木オーエンズが同社の更生債権者等を害することを知ってした行為であるから、同項一号にも該当するので、被告らは、本件抵当権設定契約について否認権を行使する。
(原告)
本件抵当権設定契約は、無償行為ではない。
1 佐々木オーエンズと佐々木クリスタルは、いずれもその親会社である佐々木硝子株式会社(以下、「佐々木硝子」という。)の完全子会社であり、資本、営業においてグループ企業として一体をなすものであり、法人格否認の法理が適用されるべきである。
2(一) 平成一〇年一〇月当時、即ちグループ企業全体としての経営危機が表面化した時点以降の時期においては、佐々木硝子グループは、主力銀行であるさくら銀行を中心として再建計画の策定中であったのであり、その再建計画とは、佐々木オーエンズ、佐々木クリスタル、佐々木硝子各社個々独立別個のものではなく、企業グループ全体としての債務の整理と製造拠点の整理統合をとる内容であった。
(二) すなわち、前記1において法人格否認の法理が認められなくても、経営危機が表面化後は、各自の債務と資産、製造、営業活動について対外的に一体とした再建計画を提示し、交渉し、それに基づき、資産の整理、統合、債務の整理に必要な契約を行っていたのであるから、この時点における前記三社の法人格は形骸化した状態にあったのであり、法的に一体のものとして評価されるべきである。
3 本件抵当権設定契約の被担保債権について、当初(平成四、五年)は佐々木クリスタル所有の土地、建物を担保としていたが、これが親会社である佐々木硝子に売却されるということで、佐々木硝子を設定者として契約を改め(平成八年)、さらに、平成一〇年に至り、佐々木グループの再建計画において右土地、建物を他へ売却したいとの要請を受け、再建計画上、引き続き製造用施設として保有する、すなわち売却予定のない本件工場財団に担保が設定されるに至ったのであるから、まさに、本件抵当権設定契約は、佐々木グループの再建計画において、他担保との交換に提供されたものであり、無償行為には該当しないのである。
第三争点に対する判断
一 本件抵当権設定契約は、佐々木クリスタルの債務につき、佐々木オーエンズが担保提供をするものであるから、佐々木オーエンズの収支上は何ら見返りのない(本件全証拠によるも、本件抵当権設定契約により経済的利益が佐々木オーエンズの財産に帰したとは認められない。)もので、対価なしに更生会社の財産を減少する行為として無償行為に当たり、しかも、本件抵当権設定契約は、佐々木オーエンズが会社更生手続開始決定申立を行った平成一一年四月二六日の前六か月内に行ったものであるので、否認権行使が認められそうである。しかしながら、甲第六号証によれば、平成一〇年当時、佐々木オーエンズ及び佐々木クリスタルは、佐々木硝子の一〇〇パーセント子会社であったことが認められるところ、佐々木グループ全体から見れば、本件抵当権設定契約も決して無償行為とはいえない部分も存するので、佐々木硝子グループ全体を一つの法人として見ることができるか、いわゆる法人格否認の法理が問題となる。
二1 そもそも否認権は、更生債権者のための責任財産を減少させる行為や債権者平等に反する行為の効力を否定して責任財産を回復させる制度であり、否認権の内容である無償行為に当たるか否かは、それが、更生債権者にとって責任財産を減少させる行為となり得るのか否かという観点から検討されなければならない。
2 そして、前記第二、四(原告)1のような事情があったとしても、グループ内各社の債権者にとって、その責任財産はあくまでも各社の財産であって、グループ全体の財産ではない(グループ各社の債権者は、グループ各社に対して請求をし得るという構成を採れば、グループ全体の財産が責任財産と言うことになろうが、それでは、株主有限責任の下で子会社を設立していること自体が無意味なものとなるので採り得ない。)から、否認権行使に当たっては、各会社ごとに個々に責任財産の減少の有無を検討すべきである。
よって、原告の前記第二、四(原告)1の主張は認められない。
3 さらに、原告は、前記第二、四(原告)2(一)の事情があるから法人格を否認すべきであるとする。しかし、グループ各社が一体とした再建計画を策定したからといって、これは、大口の金融機関に対する再建計画にすぎず、グループ各社の個々の債権者すべてをも含めた全ての債務をグループ全体の債務として把握し、その債務をグループとしていかに支払うかといった形での再建計画であるとは考えられないし、本件においても、かかる立証はない。
とすれば、同一グループといえどもグループ各社においては、独自に債権者が存在し、また、債権者が同じでも、各社の債権自体は異なるものであるから、更生債権者のための責任財産の確保という否認権の趣旨からすれば、この場合も、佐々木グループ各社の法人格を否認し否認権行使を免れることはできないものと解せられる。
三 よって、被告らの抵当権設定契約に対する否認権行使には理由があるところ、原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、被告らの反訴請求はいずれも理由があるので認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 澤田正彦)
別紙<省略>